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甲府地方裁判所 昭和25年(行)21号・昭25年(行)18号・昭25年(行)19号・昭25年(行)22号 判決

原告 長田行三 外三名

被告 山梨県農業委員会

一、主  文

被告が昭和二三年一二月二四日別紙第二目録及び第四目録記載の各土地につき樹立した未墾地買収計画はこれを取消す。

原告天野隆一、同大森栄寿の請求はいずれもこれを棄却する。

訴訟費用はこれを三分し、その一を被告、その余を原告天野隆一、同大森栄寿の負担とする。

二、事  実

原告等訴訟代理人は「被告が昭和二三年一二月二四日別紙第一ないし第四目録記載の各土地につき樹立した未墾地買収計画はいずれもこれを取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として、別紙第一目録記載の土地は原告天野隆一、第二目録記載の土地は原告長田行三、第三目録記載の土地は原告大森栄寿、第四目録記載の土地は原告天野題策の各所有であるが、昭和二三年一二月二四日被告(当時山梨県農地委員会)は旧自作農創設特別措置法(以下自創法という。)第三〇条第一項第一号の規定により右各土地につき未墾地買収計画を樹てた。そこで右計画に対し原告天野隆一、同長田行三は昭和二四年一月一四日、原告天野題策、同大森栄寿は同年一月二五日それぞれ異議の申立をしたが、同年四月二〇日右土地についてはいずれも異議棄却の決定が為されたので、更に原告天野隆一、同長田は同年六月五日、同大森は同年六月六日、同天野題策は同年六月九日山梨県知事に対し訴願したところ、同年一一月四日訴願棄却の裁決があり、原告等は昭和二五年三月五日頃その裁決書の交付を受けた。しかしながら、右買収計画は次のような理由により違法である。

第一、先づ原告長田行三所有の別紙第二目録記載の土地について被告は右土地を原告天野題策の所有として買収計画を樹てた。しかしながら、右土地は原告長田行三が昭和二二年四月五日原告天野題策からこれを買受けその所有権を取得したものである。従つて未だにその所有権移転登記手続は経ていないとしても、天野題策の所有ではないから、これを同人の所有として買収したのは違法である。

第二、被告は本件土地の買収計画樹立に当り右各土地に立ち入つて検査を行つたが、自創法第三二条、同法施行規則第一八条によれば、このような行為をするには予め土地の占有者にこれを通知若しくは公告しなければならない旨規定されているにかゝわらず、被告は原告等に対し右所定の手続をふんでいない。

第三、本件土地はいずれも自然的条件において開拓不適地である。すなわち、本件土地の土質は火山灰土であり、昭和二四年一月一八日附開第六三号農林次官通達「開拓適地選定の基準に関する件」(以下基準という。)にいわゆる四級土性に当り、また土層の厚さは一尺に満たず、同基準にいわゆる四級土層に該当し、いずれも農耕には適しない。なお、各土地につき開拓に適しない特殊事情を詳述すれば次のとおりである。

(一)  原告天野隆一所有土地の内、(1)湯の平第一、九四七番は東面傾斜二五度、その三方は山林で日照時間が半日しかなく、風雨の場合には周囲の木露にうたれ、耕作に適せず、また上方よりの土砂の流出を防ぐためにも山林として存置する必要のある土地である。(2)瀬戸山第二、一七四番は東面傾斜三五度であり、この土地を開墾すれば降雨の際附近の家屋、農地、家畜に及ぼす損害が大である。(3)峯山第二、一三二番、第二、一三三番、第二、一三四番は通称峯山の中腹に位し、同山からの出水を防ぐため治山上重要な箇所であり、また材木集荷場としても必要な土地である。(4)笹見原第一、九〇二番、第一、九〇三番、第一、九〇四番は山の上部からの土砂流出が同字の既墾地に及ぼす被害を防ぐ場処に当り、しかも稲の開花季には鳥居池峠から吹いてくる北風を防ぐ役割をなす山林である。(5)阿彌陀第一、九八一番は通称阿彌陀山から流出する土砂を防ぐ位置にあり、なお材木の搬出場としても必要である。

(二)  原告大森栄寿所有土地の内、(1)瀬戸山第二、一六八番、第二、一七〇番ないし第二、一七三番、第二、一七五番、第二、一九五番、第二、二〇七番ないし第二、二〇九番はいずれも傾斜一五度以上の粗い火山礫に覆われた土地で、降雨の都度土砂を流出し、附近の人家や農地に被害を及ぼしている。(2)下瀬戸山第二、二二六番の内の一、第二、二二八番の一、第二、二二九番は周囲を二、三〇年生の大木に囲まれた狭山の地であり、巨木からの雨滴がひどく、且つ、殆んど日光を受けないので農耕に適せず、また大豆粒ぐらいの火山礫が多いから、これを開墾すれば降雨の際は右火山礫を下方に流出するおそれがある。(3)峯山第二、一二〇番、第二、一二〇番の一、第二、一三五番は山間の窪地で六、七月でも日照時間は一日五時間以下である。これ亦火山礫が多い。

(三)  原告長田行三所有の法印塚第三、二八七番、第三、二八八番、六本松第三、二二八番は防風林並びに雪代に対する土砂止めとして重要地である。

(四)  原告天野題策所有の前山尾田第二、九六四番、第二、九六六番は三段階をなす土地であつて、各階の傾斜は一五度を下廻るが、全体の傾斜は一五度を越え、降雨の際には同地と隣地との境をなしている山路が急流と化する現状である。従つてこのうえ右土地を開墾すれば、周囲は、二三〇年生の山林であるから、雨水はこの土地に集中して土砂を流出し、且つ下方に位する同原告の住家等を押し流す危険がある。

第四、忍野村は富士山の北麓地帯にあり、同山からの雪代(雪溶期において多量の暖雨が降ると生ずる現象で、富士山麓の土砂が同山の北麓地帯に押出され、耕作地を荒廃せしめるもの。)の被害を屡々蒙つているが、本件土地を開墾すればその被害は一層増大することとなる。

第五、本件土地は経済的条件からみても次の二点において開拓不適地である。

(一)  本件土地の内山林はいずれも幼令林であつて将来有用な木材資源として価値があるのに、これを伐採して開墾すれば、その価値を無にするばかりでなく、農業経営をしてみても、寒冷地帯であるから精々一毛作が可能にすぎず、前述の雪代の被害を考慮し、且つ開墾費用を計算すれば到底採算が合わない。本件買収計画はかゝる経済上の利害得失を全然無視している。

(二)  本件土地を買収して開墾するときは既存耕地の健全な農業経営を阻害する結果を生ずる。忍野村忍草部落の耕地は田八四町歩、畑二〇〇町歩合計二八四町歩であるのに対し、山林は九六町歩あるが、右畑には反当り最少限度一〇〇貫の堆肥を必要とし、その半分は青草であるから、前記二〇〇町歩の既存畑に対しては青草が一〇万貫必要である。この青草の供給源は山林であるが、同部落内山林からの青草採取量は反当り一〇貫、年二回採れるとしても僅か一九、二〇〇貫にすぎず、その不足なことは明らかである。しかも、同部落には相当数の家畜があり、その飼料としての青草も必要であり、更に同部落三一八世帯の燃料(薪)の必要量をも考えれば、耕地と同面積以上の山林を必要とするところ、現在の山林面積は既に同部落における農業経営上その必要の限界をはるかに下廻つている状態であり、これ以上開墾をすゝめるときは不良耕作地を増加せしめるだけで、租税負担、諸経費の増加、供出義務の加重も伴い、健全な農業経営ができないこととなる。

よつて本件買収計画の取消を求めるため本訴請求に及んだと陳述した(証拠省略)。

被告指定代理人は原告等の請求を棄却するとの判決を求め、答弁として、別紙第一目録記載の土地が原告天野隆一、第三目録記載の土地が原告大森栄寿、第四目録記載の土地が原告天野題策の所有であること、被告が右各土地につきまた同第二目録記載の土地を原告天野題策の所有土地としてそれぞれ買収計画をたてたこと及び右買収計画樹立から訴願裁決書交付に至るまでの経過が原告等主張のとおりであることはいずれも認めるが、本件買収計画には原告等が主張するような違法事由は存在しない。以下原告等の主張につき逐次反駁する。

第一の主張について。原告長田行三が別紙第二目録記載の土地を天野題策から買受け、その所有権を取得した事実は知らない。仮に右主張のように同原告においてその所有権を取得したとしても、本件買収計画樹立当時所有権の移転登記手続がなされていない以上同原告はその所有権取得を以て第三者である被告に対抗することができない。

同第二について。本件土地の検査について原告等の主張するような通知ないし公告がなかつたとしても、自創法第三〇条による未墾地買収計画は同法第三二条、同法施行規則第一八条に規定してある手続を前提とするものではないから、その手続違背は何等本件買収計画自体を違法ならしめるものではない。

同第三について。本件土地はいずれも山梨県開拓委員会において開拓適地と判定された土地であり、土層の厚さは約二メートルあり、傾斜、土性について詳述すると、

(一)  原告天野隆一所有土地の土性はいずれも黒色礫を含む壤土で、湯の平第一、九四七番、第二、一七四番は東南面傾斜一三度、峯山第二、一三二番、第二、一三三番、第二、一三四番は南面傾斜一三度、笹見原第一、九〇二地は東南面傾斜九度でいずれも基準にいう第三級地であり、笹見原第一、九〇二番、第一、九〇四番は南面傾斜七度、阿彌陀第一、九八一番は南面傾斜五度で基準にいう第二級地である。

(二)  原告大森栄寿所有瀬戸山、下瀬戸山、峯山所在の各土地はその土性はいずれも黒色礫を含む壤土であつて、南面ないし南東面傾斜一三度以内で基準にいう第二ないし第三級地である。

(三)  原告天野題策所有前山尾田所在の土地は土性は黒色埴壤土、南東面傾斜一〇度ないし一三度で基準にいう第三級地である。

(四)  原告長田行三の所有であると主張する法印塚、六本松所在の土地は火山灰性質埴土、平坦地であり、基準にいう第三級以上に該当する。

また治山、治水の面からみても、湯の平、瀬戸山、下瀬戸山、峯山、笹見原、阿彌陀所在の本件土地を含む買収地の合計は六町歩に満たないものであつて、これを忍草部落に接した山地の集水面積約九六町歩に比較すれば、六パーセントに過ぎないから、その全部が開墾されても治山、治水に及ぼす影響は問題とするに足りない。しかも、大部分の買収地は同部落に直接影響を及ぼさない地点にあり、部落に近接している買収地と同部落との間には山林を残置する措置が採られており、いずれも雨水の浸透量が多い土質の土地であるから、土砂流出等のおそれその他治山治水上の危険はなく、その自然的条件において開拓適地であることは明らかである。更につけ加えていえば、別紙第二目録記載の土地以外の土地は明治三〇年当時畑であつたところが多く、附近に点在する既墾地においては二毛作も行われ、その作物の生育状況からみても開墾適地であり、なお傾斜地については等高線耕作法を採用し、簡易な排水溝を設ければ更にその条件はよくなる。

同第四について。本件各土地と所謂雪代とは無関係であり、本件土地を開墾しても雪代に因る被害の大小には全然影響がない。

同第五の(一)について。原告等は本件土地を開墾するよりは山林として存置する方が経済的にみて有利であると主張するが、農業生産力の増強の目的を達成するためには単位面積当りの生産力の増大と耕地拡張との二つの方法があるけれども、前者は我国の自然的条件よりみて既に技術的に限界に達しており、多く期待をかけ得ないから、後者すなわち耕地拡張の方法により増産を図ることが当面の急務とされている。しかして、本件土地の開発は右目的のため地元農家殊に零細農家が農閑期を利用し、余剰労力を以てしかもその自家労力は生産費に計上することなくしてこれを行わんとするものであるから、営農も亦有利に行われることは必然である。しかも、年々或は少くとも数年間に経済収支のはつきりする農業経営と三〇年以上の期間を経なければ経済収支のはつきりしない山林経営とを経済情勢の激変する現在において比較することは困難なことながら、強いて比較するならば、本件土地につき忍野村附近における主要作物である小麦または玉蜀黍を栽培するとして、小麦については反当り一石、玉蜀黍については反当り一石五斗の収穫が予想され、その価格を小麦一俵(四斗)金二、五〇〇円、玉蜀黍一俵(四斗)金二、〇〇〇円と計算し、これより生産費、資本利子、公租公課等一切の費用を控除すると、小麦については年間反当り金二、二九九円、玉蜀黍については年間反当り金二、七六七円の黒字となる。これに反し山林経営をすれば、五〇年後における収益の合計を金三〇四、七五〇円と計上し、この間における苗木代、植付その他一切の費用、公租、公課、保険料等すべての投下資本に対する金利を複利計算して比較すると、資本利子を年三分とみるときは年間一町歩当り金七一、四六六円の黒字、資本利子を年四分とみるときは逆に二七、二三一円の赤字となる。しかして資本利子を年三分とみることは、現在の我国の経済情勢から考えて無理であり年四分とみるのを妥当とするから、山林経営より農業経営の方が有利である。まして、前述のように右経営の比較は基礎統計の不備不正確並びに現在における経済変動等よりみて正確にこれを測定することは困難であるから、忍野村のような山村においては現状もそうであるように農業を主とし山林に依存する経営型態を採るのが適当であつて、耕地の拡張により自作安定農家を増加し、生産力の増強を図る必要があり、従つて本件土地を開発する必要性も十分存するものといわなければならない。

同第五の(二)について。原告等の争い得べき法益はそれぞれの買収土地に限らるべきものであつて、忍草部落買収未墾地全部に対して争い得べき法益はない。ところで、原告天野隆一は一一町四反七畝一五歩、同大森栄寿は三八町四反七畝二八歩、同天野題策は八町二反三畝一七歩の各山林を所有しており、右原告三名に関する限り薪炭採草等の不足はあり得ず、農業経営を阻害するようなことはない。仮に原告主張のように本件土地の開墾が忍草部落全体の既存耕地の営農を阻害するから違法であるという主張が許されるとしても、右主張事実は否認する。すなわち、原告等は忍草地内の山林は九六町歩にすぎないと主張しているが、同地内の山林原野は村有並びに民有を合わせて三一二町五反二畝一歩、内山林は二七四町五反二畝一歩である。しかして忍野村における耕地面積は耕地、山林、原野合計一、四九五町歩のうち四〇パーセントを占めるにすぎないから、堆肥飼料等は自給自足してなお余りある。詳述すれば、堆肥としての青草が耕地反当り一五〇貫必要とみて、山林からの青草採取量は反当り一〇〇貫ないし二〇〇貫、平均一五〇貫とみられるから、堆肥供給源としては耕地と略々同面積の山林があれば足りるし、また、同村における昭和二四年度の牛馬頭数は三六六頭であるから、その飼料として一頭当り一日平均三貫の青草を必要とするとしても、残の山林原野を以て十分に賄うことができ、更に燃料(薪)の供給を考えてみても忍草地内には営農に差支えない山林が存在するのである。従つて、本件土地を開発して農地としても決して既存農家の営農を阻害するような結果を生じない。

以上のようなわけで、本件買収計画には何等違法な点はないから取消さるべきものではないと述べた(証拠省略)。

三、理  由

別紙第一目録記載の土地が原告天野隆一、同第三目録記載の土地が原告大森栄寿、同第四目録記載の土地が原告天野題策の所有であること、被告が昭和二三年一二月二四日右土地につき、また同第二目録記載の土地を原告天野題策の所有地としてそれぞれ自創法第三〇条第一項第一号の規定に基き未墾地買収計画を樹て、これに対し原告等主張のような異議、訴願を経たものであることはいずれも本件当事者間に争のない事実である。仍つて右計画に対し原告等の主張する違法事由につき順次判断する。

(一)  第一の主張に対する判断。被告が別紙第二目録記載の土地を原告天野題策の所有地として買収計画を樹立したことは前述のとおりである。しかし、成立に争のない甲第一五号証並びに原告長田行三、同天野題策(第一回)の各本人訊問の結果によると、同目録記載の土地は原告長田行三が昭和二三年四月五日原告天野題策から代金三三〇円を以つて買受け、その所有権を取得したものであつて、従つて原告天野題策は本件買収計画樹立当時既に右土地の所有権を有しなかつたことが認められ、他に右認定を左右し得る証拠はない。被告は原告長田行三は右所有権の移転につき登記を経ていないから第三者である被告に対抗し得ないと主張し、同原告が右土地につき所有権移転登記手続を了していないことは争のない事実である。ところで、自創法第三〇条による未墾地の買収は国家が権力的手段を以て私有土地の強制買上を行うものであつて、買収計画はその買収手続の内容を決定する一の行政処分であるから、被買収土地については登記簿上の所有名義如何にかゝわらず、その実質上の所有権の帰属を確定し、これを基礎として計画を樹てなければならないことは当然である。民法第一七七条は私法上の取引の安全を保障するため設けられた規定であつて、その本質を異にする農地の買収処分には適用がないものと解するのが相当である。それならば被告が右土地を天野題策の所有として樹立した買収計画は、その内容中実質的に重要な要件である買収の客体とその所有者とに齟齬があり違法であることが明らかであるから、これを維持することは到底許されない。仍つて原告長田行三の主張はその理由があるから、別紙第二目録記載の土地に対する買収計画は他の争点についての判断をまたずこれを取消すべきものとする。

(二)  第三の(四)(別紙第四目録記載の土地に関する)の主張に対する判断。検証の結果によると、原告天野題策所有の別紙目録記載の各土地はいずれも附近一帯と同様杉、檜、唐松、灌木等の密生する山林で、その地勢を見るに上方より第二、九六六番、第二、九六四番と接続しており、第二、九六四番はその中央において約六尺の高低があり、また第二、九六六番との間も同程度の高低をなす三段階のある土地であつて、その各段の部分の傾斜は緩慢であるけれども、その下方に接する同第二、九六二番は約四〇度の急傾斜を以て道路に接しており、その真下に原告天野題策の住家等が存在することが認められ、また、原告天野題策本人訊問の結果によると、右のような傾斜地である為、夕立等の際には両土地の東側に在る山道の土砂が下方に押流された事実のあることもこれを認めることができる。それならば、たとえ右両土地の各段の部分自体は土質土層傾斜等において基準に適合するとしても、その全体の地勢からみて山林を伐採しこれを開墾するときは、降雨の際にはその土砂を低地に押流し、附近人家及び公道に害を与えることは必然的であつて、このような人家或は道路と殆んど断崖状の位置に在る土地を開墾適地となすことは著しくその判定を誤つたものであつて未墾地買収の目的に副わないから、右土地に対する買収計画は違法であると断定せざるを得ない。証人小川一郎、同石原一美の各証言に依つては右認定を覆すことはできない。仍つて原告天野題策所有の別紙第四目録記載の土地に対する買収計画は右の点において既に違法であるから、爾余の争点についての判断をまたずこれを取消すべきものとする。

(三)  第二の主張に対する判断。自創法第三二条は都道府県農地委員会に対し同法第三一条による未墾地買収計画樹立のため、必要な他人の土地に対する一時的公用制限の権限を設定した規定であり、同法施行規則第一八条はその手続を定めたものであつて、右手続は買収計画それ自体の本質から要求されるものではない。従つて、被告が右規則第一八条に定められた手続をふまなかつたとしても、同条に違背するは格別、本件買収計画を違法たらしめる事由とはなり得ないと解すべきであるから、右主張はこれを排斥する。

(四)  第三の主張(但しその(四)を除く。)に対する判断。成立に争のない甲第五、同第六号証、検証の結果並びに弁論の全趣旨に依れば、本件各土地の土性は火山灰質埴土であり、土層の厚さは表土心土合わせれば優に四〇センチメートル以上あり、また礫度並びに傾斜も農耕に何等支障のない程度であることが認められるから、土地の性質自体は開墾に適するといつて差支がなく、他に右認定を覆すに足る証拠がない。更に原告等が主張する各土地個有の自然的条件について考えてみるに、検証の結果、証人石原一美、同小川一郎、同天野重義の各証言並びに弁論の全趣旨を綜合すると、(1)湯の平第一、九四七番(原告主張(一)の(1))はその三方が山林であることは原告主張のとおりであるが、それがために特に農耕に支障がある程度に木露がひどいというような状況ではないこと、また南側が開けており、日照時間が特別短いという状況はなく、却てその南側に接続する同所第一、九四五番は既に開墾されて小麦畑となりかなり良好の発育を示していること、及び土質は礫を含んでいるため雨水を吸収する量も多く、従つて降雨による土砂流出の危険は存しないことがそれぞれ認められる。(2)瀬戸山地内の各土地(原告主張(一)の(2)及び(二)の(1))は第二、一九五番を除き比較的忍草部落に近いとろこに在るけれども、その距離、傾斜及び土質からみて簡易な排水措置を講ずることにより開墾による土砂の流出が人家及び農地に被害を及ぼすような状況ではないことが認められる。(3)下瀬戸地内の土地(原告主張(二)の(2))のうち、第二、二二六番及び第二、二二九番の二筆は尾根に位する平坦地であつて、日光を受けることが少いというような状況は全然なく、第二、二二八番の一も亦南面傾斜で特に日照時間が少いという状況はなく、更にその面積からみて周囲の樹木からの雨滴によつて農耕に適しないという事情及び直ちに土砂の流出を生ずる危険もないことがそれぞれ認められる。(4)峯山第二、一三二番ないし第二、一三五番(原告主張(一)の(3)及び(二)の(3))は通称峯山の中腹に位し、第二、一三二番ないし第二、一三四番は稍々窪地になつており雨水の侵蝕のあとが認められるけれども、この土地を通る雨水の集水面積はさして広いものではなく、簡易な排水施設を施すことによつて出水を防ぐことが可能であり、また日照時間が特に短いものとも認める状況は存在しないことが認められ、峯山第二、一二〇番、第二、一二〇番の一(原告主張(一)の(3))は既に開墾されて馬鈴薯及び麦が栽培してあり、その作柄は普通であつて、四方は殆んど開けており、日照時間が特に少いというような事情は存しないことが認められる。(5)笹見原地内の土地(原告主張(一)の(4))はその面積、周囲の状況からみて、これを開墾しても上方よりの土砂流出の防止にさしたる影響がなく、また右土地に生立している山林によつて稲の開花期における鳥居池峠方面からの風による南方の田に対する被害を喰い止めているという状況は必ずしも存しないことが認められる。(6)阿彌陀第一、九八一番(原告主張(一)の(5))は阿彌陀山からの雨水が流れる道には当つているが、その面積は約八畝であり、簡易な排水溝を設けることに依り、同山からの土砂流出を防止することは可能の状況にあることが認められる。なお、原告は峯山地内の土地及び阿彌陀第一、九八一番の土地が材木の集荷場として必要であると主張するがこれ等の事情は何等右土地を開墾不適地であるとなす事由にはならない。証人天野尚光、同大森政英、同天野義輝、同三浦清英、同大森樟雄の各証言及び原告大森栄寿の本人訊問の結果中以上の認定に反する部分は当裁判所これを措信しないし、他に右認定を左右し得る証拠はない。してみると、右別紙第一及び同第三目録記載の各土地は、その自然的条件において農地としての開発適地に該当するから、本主張はその理由がない。

(五)  第四の主張に対する判断。証人三浦清海の証言並びに検証の結果に依れば、別紙第二目録記載の土地以外の土地はいずれも山中湖から流れ出る桂川を中間にして富士山頂の東北に位し、しかも小高い山の麓或は中腹に存在するので、その位置からいつて、仮に富士山からの雪代が本件土地の方向に流出することがあるとしても、それは中間の凹地に阻まれ右各土地にその被害を及ぼすことはないものと認められ、他に右認定を覆すに足りる証拠がないから、この点についての主張も亦理由がない。

(六)  第五の主張に対する判断。原告の右主張は経済的社会的見地からの本件土地開拓の必要性に関する政府の認定を攻撃するものであることは明らかである。ところで、自創法第三〇条による未墾地等の買収は自作農を創設し、または土地の農業上の利用を増進するため必要がある場合に行われるのであるから、同条第一号に該当する土地は気温、傾斜、土性、土層などの自然的条件、及び資源の利用に関する綜合的見地からする経済的条件並びにその土地附近の社会的条件等において右必要性に適合するいわゆる開拓適地でなければならない。従つて、右必要性の認定については開拓土地の自然的条件に関する農芸学上の知識、国家の農業政策、林業政策或は経済政策及び開拓地附近の社会的諸条件に関する政治的経済的知識等の専門的技術的考量経験を必要とすることは勿論のことである。しかして政府のなす右必要性の認定の当否は最終的には司法裁判所の判断に服すべき事項であるとしても、裁判所はその機能及び性格からして右のような専門的技術的考量を要する事項については証拠調の結果によるも、その判断の資料が不十分となる場合のあることは免れ難い事実である。従つて、かゝる事項に関する行政庁の認定はそれが前提となる事実について誤りがなく、かつ専門的知識及び相当の資料に基いてなされたものである限り、裁判所としてはその認定をもつともとしなければならないこととなる。前掲開拓土地の自然的条件の適否についても、裁判所は前記基準を以て一応相当の線としてこれを是認し、当該土地が基準に適合するか否かの判断に終始せざるを得ないのも右のような理由に基くものであろう。まして本争点のような経済的社会的条件に至つては多分に政策的技術的考量を必要とする事項であるから、行政庁の認定を覆すには余程慎重でなければならないことは勿論である。以上の観点に立つて本件を観察するに、成立に争のない乙第六、第七号証、証人小川一郎の証言並びに弁論の全趣旨に依ると、被告は本件買収計画樹立に際しては山梨県開拓委員会に諮問し、同委員会においては現地を踏査して、専門的な知識経験に基いて調査を遂げ且つ、森林経営と農業経営との経済的比較、附近農民の採草地、薪炭林についても考量のうえ、開拓適地調査専門委員会の議に付し、これを開拓適地と判定し、被告はその諮問に基き本件土地買収の必要性を認定したものであることが認められ、証人大森樟雄、同三浦清英(第一回)、同三浦清海の各証言に依つては右認定の基礎事実についての誤認もしくは認定の不合理性は見出し難いし、他に以上の認定を覆し得る証拠がないから、右必要性の認定は相当であると認めるの他なく、従つて本件買収計画には原告主張のような瑕疵は存在しないものといわなければならない。

以上の理由に依り原告長田行三、同天野題策の本訴請求を正当としてこれを認容し、その余の原告等の請求は失当として排斥することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 町田健次 杉山孝 勝見嘉美)

(目録省略)

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